子どもたちのことを知っていただくために knowledge

特別に問題があるようには見えないけれど、少しみんなとは行動が違っていたり、個性が強すぎるような印象を受けたり、ときどき過剰な情緒反応をしたりと、一般的には理解することが難しい言動をする子どもたちの中に、「(軽度)発達障害」のある子どもがいます。
「(軽度)発達障害」という診断名はありませんが、他の子どもたちと比べて、目立つ部分が、‘いつも’そうであることでもなく、発達のすべての側面での問題ではないために、軽度という表現が用いられています。

子ども

どのような子どもたちでしょう?

ADHD(注意欠陥・多動性障害)

多動性・注意集中困難・衝動性(着席できない、落ち着きがない、話しだすと止まらない、注意の集中時間が短い、気が散りやすい、突発的な行動をとる、最後まで人の話を聞くことができない、順番が待てない、など)が、主な症状です。
そのために、学校生活では先生の話が理解できない、自分の好きなことしかしない、教室内で立ち歩く、座っていても常にごそごそと身体を動かしているなどの様子がみられます。

LD(学習障害)

全般的な知的な発達に遅れはありません。他のことはできるのに、聞く(集団の中で、指示や注意を聞き取り、理解する)、読む(文章の意味を正しく読み取る)、書く(文字を正確に、適切な大きさで書く)、計算する(数の概念を理解して、数の処理をする)、思考する(考える)、など学習の中で、読むことだけが苦手、計算だけが苦手、図形が理解できない、といった特定の学習能力に難しさがみられます。

アスペルガー症候群・高機能自閉症

知的な発達に遅れはありませんが、社会的相互交渉(楽しみや興味を他の人と共有する、他の人と情緒的な関わりをもつ、社会的ルールを理解するなど)に難しさがみられます。いろいろなことを、とても良く知っているのに、それを正しく使えなかったり、比喩や冗談が理解できずに、ことばどおりに受け取ってしまったり、自分なりのルールで行動するために、対人面でのトラブルが生じることもあります。
これらの行動特徴をもつ子どもたちは、大きな分類では、「発達障害」に含まれており、アメリカ精神医学会のDSM‐ⅣやWHOのICD-10の診断基準には、次の3点が挙げられています。

  1. 生まれてから18歳までの間に発症します。
  2. 中枢神経系(脳の神経系)の何らかの障害が原因で起こります。
  3. その障害は、進行しません。(症状は変化しますが)
軽度発達障害の子どもたちにみるさまざまな問題

軽度の偏りに見える子どもたちですが、さまざまな問題を併せもっていることがあります。

  • 学習上の問題
    学習障害
  • 運動上の問題
    発達性協調運動障害
  • 行動上の問題
    注意欠陥多動性障害
  • 社会性の問題
    アスペルガー症候群
    高機能自閉症

なぜ、このようなことが生じるのでしょう?

  1. 中枢神経系の機能障害
    脳の未知の構造や機能に何らかの不都合が生じた結果と仮定されています。決して、保護者の育て方や躾の問題ではありません。
  2. 認知(情報処理)過程の機能不全
    この結果、外部からさまざまな感覚器官(聴覚、視覚、身体に感じる感覚など)をとおして入ってくる感覚情報を受け止め、整理し、関係づけて、表出する過程のどこかに十分に機能しない部分が生じることになります。
  3. 学習や社会適応行動の習得の難しさ
    聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの教科学習や社会に適応するための基礎となる能力のいずれかに習得や活用の難しさが見られます。
  4. 情緒・行動面の不適応症状
    学習困難や社会的不適応行動からくる心理的、二次的症状や、行動面での自己コントロールの弱さ、対人・社会的認知能力の発達の遅れや偏りなどによって、さまざまな不適応症状が生じることになります。

二次的症状は、なぜ生じるのでしょう?

  1. 一見、なんの問題もないように見えます。 そのために、もっている難しさを理解してもらい、必要な援助を得られにくいことが多くあります。
  2. 難しさを理解してもらいにくいために、他のことはできるのに、できないことがあると「怠けている」とか「自分勝手だ」という誤解を受けやすくなります。
  3. 誤解されたり、いじめの対象になったり、叱られることも多いため、精神的に追い詰められたり、自尊心が低くなったり、心の問題を負ってしまうこともあります。

日常的に、どのように子どもたちを支援していけばよいのでしょう?

問題行動を単純に、わがままや怠けている、躾が悪いといった問題として決めつけないでおきましょう。

それよりも、「なぜ、この子は、こんなことをするのだろう?」というお子さんの行動の背景をまず考えてみましょう。「なぜ?」がわからなければ、適切な対応はできません。
そのためには、お子さんの目線にたって、お子さんの行動をまず観察することが必要です。頭ごなしに批判をしたり、強制的な指導は避けられることが賢明であると思います。

共感的な態度をもちましょう。

共感的理解とは、単なる受容ではなく、またこちら側の理解を押しつけるものでもありません。「あなたは、こう感じたのかなと思ったけど、それでいい?」という疑問型でお子さんの行動の背景にある気持ちを確認することです。その上で、さらにお子さんが望ましい考えや行動に行き着くまで、一緒に考えてあげることです。

お子さんが自尊心を高められるような働きかけをしてあげましょう。

お子さんが嬉しくなるようなちょっとしたことばかけやアタッチメント(愛着行動)を示してあげたり、お子さんの適切な行動などに対して、誉めてあげたり、常にお子さんに関心や好意をもっていることを示してあげましょう。先生方の気持は、ことばや態度にしなければ、お子さん方には伝わりません。先生に関心や好意をもっていただくということは、お子さんの自尊心を高めるために、とても大きな働きかけになります。

全身を使うダイナミックな遊びは、脳の神経の発達を促します。

お子さんに強い印象を与える遊びをたくさん経験させてあげましょう。
物を造ったり、壊したりする遊びは達成感を味わったり、エネルギーを発散させることにも役立ちます。幼いお子さんは、身体の動きを通して、さまざまなことを学習されます。しっかり、身体を認識する、ボディイメージを構築するような遊びを楽しませてあげましょう。

聴覚情報処理能力の弱さをもつお子さんに対する際には、視覚化、
話ことばだけに頼らない伝達手段を基本にしてあげましょう。

特に、視覚が聴覚より優位に働く傾向をもつお子さん方には、十分な視覚的情報の提供を心がけましょう。他のお子さんの行動を見ることや、新しい活動、発表会や運動会などの日常的ではない行事などについては、事前の視覚的情報やお子さんが十分に状況を把握できるまで時間をかけさせてあげることも必要かも知れません。
また、ことばでの指示は、短く、簡潔に、さらに繰り返してもう一回、聞かせてあげましょう。

不器用なお子さんへの配慮

ある意味で、不器用さは目に見えない肢体不自由の状態です。上手にできない部分を補ってあげる方法を一緒に考えてあげたり、結果ではなく、その過程での努力を誉めてあげましょう。50%しか出来なかったではなくて、50%も出来たね。という見方、考え方が必要ではないでしょうか。

注意力の問題に対する配慮

ADHDの症状はある程度状況に依存する傾向があります。基本的には、周囲からの刺激が多い環境ほど、注意力障害や多動性は強くなります。このことは逆に言えば、刺激を制限し、環境や状況を統制するほど、症状の程度が軽くなることを意味しています。

環境の調整
常にシンプルにしておく必要はありませんが、必要に応じて子どもの注意を引きそうなものは片づけておきましょう。目につかないように、戸棚に収納したり、カーテンをひく、片づけにお子さんを参加させることも心構えを作らせるのに役に立つかもしれません。
また、教示は短いことばで、明快にする必要があります。今、ここで、どうするのか、それ以外の余分な話はお子さんの注意力をかえって散漫にさせてしまいます。
課題時間の限定
環境を調整しても、注意の持続困難の問題があります。 そのお子さんの注意の持続力を把握しておく必要があります。どれくらいの時間なら集中できるのかを知っておくことが大切です。課題に際しては、遂行の途中でそのお子さんにことばをかけたり、していることを確認したり、注意を引き戻すような働きかけをすることも良いでしょう。

多動に対する配慮

課題に入る前に、そのお子さんの活動エネルギーを発散させる必要があります。十分に発散できる時間的な余裕を与えてあげましょう。

衝動性に対する配慮

衝動的に予測不可能な行動を示すお子さんに対しては、衝動的行動の前に介入できることが必要ですが、予測不能な行動の予兆を事前に察知することはかなり難しいことです。お子さんが衝動的な行動に出られた場合は、まず叱らないことです。どうしようと思ったのかを確認すること。そしてそれに対して、どうすれば良かったかをその都度お子さんに考えていただく機会を与えていくことが大切なことです。

基本的には、「指導する姿勢」より「共に感じ、行動し、考える」姿勢を大切にして、
お子さんたちの発達の土台づくりに貢献してあげてください。

もって生まれた能力的な偏りは、療育的な支援によって、軽減することができます。
二次的症状は、周囲の人たちの適切な理解と援助があれば、防ぐことができます。
子どもたちが、健やかに、逞しく、大きく育つために、周囲の人たちが、それぞれの立場で、
子どもたちを守り育てるベスト・サポーターになってください。